――僕は、あたたかな温もりの中にいました。
目を閉じたまま、腕の中の温度に身を委ねます。
離したくないと思いました。手離すことなど、出来ないと思いました。
貴方が目覚めるのが少しでも遅くなればよいと心の何処かで願い、僕は微かに腕に力を込めます。
夢。
この場所には、僕とさんだけが存在していました。
此処でのさんは、僕たちが初めて出会った頃と同じ姿を保っています。
時間が流れて、それでも貴方は然程変わりない容姿をしていましたが、夢の中でのさんは本当にあの頃のままでした。
大学生で、そして教育実習生として僕の前に現れたその人。
その肩口に顔を埋め、伝わってくる体温を確かめられる。そう出来るというのは、なんて幸福なことなのでしょう。
……勿論、僕にはもう身体がありません。ただ、そう感じる事だけは出来たのです。
僕たちは、僕は、貴方の夢の中でだけ触れ合うことが出来ました。
夢でなら、生身の身体という殻は関係ありません。
精神と魂だけの存在同士、僕と貴方が、言葉以外の手段で心を交わすことが出来る。
その唯一の場所が、此処だったのです。
毎日のようにさんと日々を過ごすようになって、それでいてなお、僕は僅かに空疎を――僕と貴方との間にある、絶対的な境界線の存在のことを――胸に抱いていました。
こうして貴方を抱きしめていられる時間でさえ、その感覚は埋められきれないのです。
この場所でしか、僕は、貴方に触れられない。
ならばせめて、少しでも長くこうしていたい。
僕は感情を抑えきれず、また、ほんの少しだけ腕の力を強めました。
けれど、朝はいつも同じように巡ってくるのです。
先に夢から醒めた僕は、ベッドの端の方に腰掛けました。
規則的な時計の秒針の音を聞きながら、傍らのさんが目覚めるのを待ちます。
静かな、いつもの朝でした。
網戸窓からの風が、もう実体を持たない筈の僕の前髪を少しだけ揺らしていきます。
朝方はまだそう気温も高くない、夏の始まりの時期です。
掛布団からタオルケットに変えたばかりで、貴方には少し肌寒いのではないかと心配になります。
「……っくしゅ」
ああ、やっぱり。
僕がそっとそちらを見やると、その人は身を丸めてタオルケットの中にもぐり込むような仕草をしていました。
時計を見ると、そろそろ起き出すべき時間を指しています。
「さん、朝ですよ。起きてください」
僕は、声だけを掛けました。
揺り起こすことが出来ればいいのですが、そうする事は叶いませんから。
それでも、幾分の間を置いて、貴方は目蓋を擦りながらその半身を起こしました。
「ん……、荒井くんおはよう……」
「おはようございます。……すみません、まだ眠いかもしれませんが、あまり遅くなってはいけませんから」
「ううん、いつも起こしてくれてありがとう」
両足を寝台の下にひたりと下ろし、大きく伸びをしながら立ち上がるさんの前を僕は通り過ぎました。
「じゃあ、いつも通り僕はあちらで待ってますから」
「うん。すぐ行くね」
着替えようとするその人を、いつもは振り向かずに部屋を出るのです。
けれど今朝は、僕はそうしませんでした。
「荒井くん?」
部屋の戸の前で踵を返した僕を、さんが見ています。
ほんの少しの距離です。僕が貴方に近付いて、そのまま顔を寄せるまでなど一瞬の事でした。
見れば、さっきまで寝起きでとろんとしていたその表情が強張り、たった今口付けたつもりの頬が朱を帯びています。
ふふ、と笑ってみせると、さんは頬を押さえながら口をパクパクさせていましたけれど。
「…………ふ、不意打ちなんて卑怯な真似をっ!」
「嫌、でしたか?」
「嫌とか、そういうんじゃなくて、わたしはただ」
「よかった。嫌ではなかったんですね」
「…………ああ、もう! こんな朝っぱらから、何でわたしは荒井くんと言い合ってるんだろう」
荒井くん相手に口で勝てるわけないのに、なんて頭を振っているその人が何だか面白くて、もう少し揶揄ってみたくなるのを抑えきれませんでした。
「ついさっきまで、夢の中ではお互い仲良くしていたというのに、随分な言い草ですね……」
呟いてみせると、貴方はいよいよ赤くなって、傍にあったクッションを投げ付けてくる始末です。
僕がさんと共に在るようになってもうじき一年が経とうというのに、貴方ときたら相変わらずですね。
肩を竦めてみせてから、 「早くしないと、本当に遅くなってしまいますよ」 と残して僕は部屋を出ました。
「誰のせいで遅くなりかけてると思ってるのー!」 、という台詞はしっかりドアの向こうから聞こえていましたが。
僕は小さく笑いながら、けれど口元と、投げ付けられたものを受け止めた胸に順番に、そっと手を当てます。
触れた筈なのに、何の感触も伝わってはきませんでした。
ふと窓の外を見ると、東の空の太陽がまるで夕焼けのような赤を滲ませながら、黄金色の光を辺りに放ち始めています。
その朝の陽を受けた僕の後には、影などありません。
僕という存在を透かした光は、何事もないかのように、窓枠の形をした光の水たまりを床に作っていました。
僕は、さんと共に在る身でしたが、常に一緒というわけではありません。
貴方がお仕事をされている時などは邪魔にならないよう離れていましたし、独りになりたい時だってあるでしょうから。
そういう時は、僕も独り、時間を過ごすことにしていました。
貴方の部屋で本を読んだり、気が向けば散歩するように外を歩いたり、或いは空を眺めたり。
……最初の頃は、部屋に籠ることの方が多かったかもしれません。
貴方の本棚にあった僕の知らないタイトルの小説や、さんお気に入りの映画の原作本などには少なからず、関心がありましたから。
けれど室内にいる時間が長く続くと、自然と「今度は外に出てみよう」という気分になるもののようですね。
近くの学校のグラウンドに出向いては、其処で行われるサッカーの試合を観る事もありました。
(僕が一年の時サッカー部に在籍していた事をお話したら、さんは驚かれていましたけれどね)
逆に同じ時間を過ごす時は、色んな事をしました。
貴方が今日あった事を教えてくださった後に、僕も今日読んだ本のことをお話ししたり、そんな情報交換は定番のことでした。
夕食を取りながらテレビを観たり、或いは地上波の映画を鑑賞したり、休日には映画館へ足を運ぶこともありましたね。
買い出しではさんが僕の意見を求めることも多く、それに答えることも幸福の一部でした。
(荒井くんなら、どれがいい?)
コンビニエンスストアの新商品コーナーで、スーパーのアイス売り場で、洋菓子店のケーキが並ぶガラスケースの前で。
声には出さず、心の中で貴方は僕に問いかけてくれます。
何故なら、さんは僕にも 『 食べる 』 ということの楽しみを分けてくださるからです。
今でもはっきりと覚えている事ですが、僕が初めて貴方の身体をお借りしたのは、二人で初めて迎える秋の日のことでした。
既にその頃には寒さが厳しさを増していて、防寒具なしではいられなかった程です。
その日のさんは、お仕事から戻られるなりぐったりとして、床にへたり込んでしまわれました。
訊けば、体調が優れないということです。
僕は病院に行くよう勧めました。
けれどその場を動くことも困難のように、貴方はただその場に黙ってうずくまってしまったのです。
しばらくしてさんが意識を取り戻されたとき、貴方はすぐには、ご自分がどうなったのかを知ることが出来なかったようですね。
ええ。……この時、僕は初めて、さんの身体をお借りしたのです。
(その間、貴方の意識は本当に眠ってしまったのと同じ状態になるようですから、何も覚えていないのは仕方ありません)
僕は、貴方の身で外出の準備をし、タクシーで病院まで赴き診察を受け、薬を処方してもらったのです。
……少し、疲れが出ただけのようでしたね。
薬のおかげで夢も見ないほど深く眠って、目覚めた時にはすっかりいつものさんでしたから。
僕が貴方の代わりに行動をしていたと知った時、さんは驚くよりも先にこう口にされたのを覚えています。
「無理させちゃったみたいで、ごめん。辛かったよね、実際、立とうにも立てないくらいだったし」
「いいえ」
僕は、静かに首を振りました。
肉体的な苦痛など、問題ではありませんでした。それにそれは、貴方が生きているという証でもあるのですから。
そんなことよりも、
「さんが苦しんでいるのに、何も出来ないことの方が、ずっと辛かったです」
僕は、ぽつりとそう漏らしていました。
(その日の夢の中では、いつもよりずっと長く、貴方は僕を抱きしめてくれました)
……その時からでしたね。
さんは、自らの意志で、その身を時折僕に委ねて下さるようになりました。
生身の身体がなくては出来ないこと、飲食したり、何かに触れたり、香りを嗅いだり、風に吹かれたり、そんな幾つかのことを、貴方は僕に許してくれたのです。
風や光を感じることは、実体を持たない今でも、僕は出来ていたつもりです。
けれど貴方の身を通して見たそれらは、なんて明瞭で鮮烈な輝きに満ち溢れていることでしょうか。
そのことをそのままさんにお話しし、僕が感謝を伝えると、
「荒井くんがわたしに乗り移れるって知ってたら、もっと早くから、そうしてたんだけど……」
そうしたら、もっと前からこんなふうに、ケーキも半分こして食べられたのに。
ごめんねというような顔をしながら、二分の一になるようにナイフを入れたショートケーキを差し出して、貴方は合図のように目を閉じました。
いいんですよ、そんなふうに申し訳なさそうな顔をされなくても。
僕だって、自分にこんな事が出来るとはあの秋の日まで知らなかったんですから。
何より、貴方はいつも、僕と生きることを共有してくれます。
半分はさんが、半分は僕が。
僕は、さんの手でフォークを取ると、小さく微笑みました。
「いただきます」。
白いクリームに包まれたやわらかなスポンジを、一口の大きさにしようとフォークを入れます。
けれど。
ふと、僕は手を止めます。
貴方の指先が、すぐ目の前で動きを止めます。
さんと僕とのささやかな日常の中で、時折前触れなく訪れる胸の焦がれは、日ごとにジリジリと増していく気がしました。
……こんなに傍にいるのに、この手は、僕の目の前にあるのに、
なのに、どうして触れられないのだろう。
答えのわかりきっている筈の問いが、僕を窒息させそうでした。
振り払うことの出来ない疑問を、無理矢理に断ち切ります。僕は何も知らないフリをして、口にケーキを運びます。
ほどけるようなきめ細かい生地は程よく甘く、なのに何故か涙が出そうな気がしました。
僕と貴方は、十数年前の夏の始まりの季節に出会い、別れて、そして再び再会しました。
あの頃はまだ、さんのことを何も知らず、そして貴方も僕を知らなかったことでしょう。
けれど僕たちは、あの頃の自分たちが思いもよらないような形を以って、寄り添い合ったのです。
再会してからの、一年という時間はあっという間の事でした。
幸せの日々でした。満たされていました。
――なのに、僕は時々、どうしようもない程苦しくなるのです。
それを貴方に遂に伝えたのはつい昨日、眠りに落ちる前の夜の時間でした。
灯りを消してからも、さんと僕は暫し、静かな会話を重ねていました。
網戸窓からの夜の風は既に夏のもので、空を見上げれば半月よりもなお膨らんだ白い月が浮き、辺りをほんのりと照らしています。
どちらともなく言葉が途切れた後、唐突に、
「もう少しすれば一年だね」と、ぽつりとさんが呟きました。
僕は何かを言うわけでもなく、ただ肯くだけに留めます。
貴方が僕を受け入れて下さってからの、幸福という色に彩られてきた今までの時間。
ただ――
「……荒井くん、わたしと居て不自由とか嫌なこととか、ない?」
「あるわけ、ないじゃないですか」
何を言い出すのかという意味合いを込めて、言い返します。
さんは暗がりの中、淡い月明かりをその黒髪に浴びながら、僕を見守っているかのように目を細めていました。
ならいいんだけど、とその人は言い、そしてわざと茶化すような言い方で続けます。
「ほら、荒井くん、たまーに変に気を遣うところとかあるから。何か我慢してることとかないかなって思って」
「…………。さんこそ、僕と一緒でご不便なことは、ないんですか」
「『 あるわけ、ないじゃないですか 』」
僕の物言いを真似て言う貴方は、ひとりで小さく笑いました。
なのに、僕のこころの中は、じわりと黒いインクが滲むような、痛みにも似た何かが広がるのです。
「荒井くんと一緒にいられて、毎日言葉を交わして、ご飯食べて、好きな本や映画の話が出来て、一緒に眠って一緒に起きて。一緒に生きられて、すごく嬉しい」。
「わたしは、あの時 『 一緒においでよ 』 って言ってよかったって思ってる」。
「荒井くんも同じように思ってくれていたら、いいんだけど」。
貴方の言葉に、僕は耳を塞ぎたくなりました。
罪悪感に押しつぶされてしまいそうだったのです。
僕は、自らの強欲さから目を背けたかった。けれど、……それを抱え込むのは苦しいことでした。
さん、と声を掛けると、貴方は瞬いてこちらを見ます。その目はしっかりと僕を捉えてくれていました。
――少しだけの間、僕の話を聞いてくれますか。
――なんでしょう、改まって。
微かに笑みを残すその顔に、僕はそっと手を伸ばしました。
一瞬ぴくりと反応した貴方にそのまま伸びた指先は、しかしその輪郭をなぞることなく透けてしまいます。
「貴方に触れたいと、ずっと思っていました」
僕は目を伏せ、ずっとずっと前からの想いを声に乗せます。
一年前、貴方と共に生きる事を心に決めた時は、他に望むことなど何もないと思っていました。これ以上の幸福があるのだろうかと。
それだというのに、……自分は、想像していたよりもずっと欲張りな人間だったようですね。
僕はいつの間にか、あっさりとそれ以上の事を欲するようになってしまったのです。
「僕は、夢の中でだけさんに触れることが出来ます。……それなのに、夢だけでは足りないといつしか思うようになってしまった」
何故なら、夢は、夢でしかないからです。
……言いにくいことですが、正直に言いましょう。
僕は、さんが眠ってしまわれた後、その身体をお借りして、貴方自身に触れたことがあります。それも、何度も……。
けれど、僕が望むのはそんな方法ではないのです。
僕は、僕という存在がこの世界に正しく在るうちに、貴方と触れ合いたかった。
なんて思い上がった、浅ましい思いなのでしょう。
もう二度と叶わない、叶うはずもない願いです。
僕は夢だけで満たされるべきだったのに、なのに今なお、貴方のぬくもりと感触を確かめたいと思わずにはいられないのです。
僕とさんの間にある、絶対的な境界線。
目の前に立ち塞がるそれは、永い間そこに居座り続けるでしょう。
わかっている筈なのに、それが残念でなりませんでした。
僕が本来もう存在しない人間だという事実を、まざまざと突き付けられるからです。
貴方は生きていて、僕は死んでいて。
そんな事実を今になって、僕は思い知らされたのです。
……どうして、でしょうね。
わかっている筈だったのに。僕は今、しあわせの只中にいるというのに。
なのにそれを思うと、苦しくて苦しくて堪らなくなるのです。
僕の言葉は、夜の中で溶けるように消えていきました。
暗がりの静寂の中、このまま僕も同じように消えてしまうのではないかという錯覚さえ覚えます。
目を閉じて意識をも閉ざせば、僕は遂に、この世界に別れを告げる事になるのではと。
……けれど、僕は目を閉じたりはしませんでした。
貴方の右手が持ち上げられていたからです。
見れば、さんは静かに此方を見つめながら、その手のひらを僕に伸ばすのです。
僕はそれに合わせるように、自身の手のひらを触れ合わせます。
抵抗もなくすり抜けてしまいますが、感じられるほのかな温度は貴方の体温です。
温度だけは、どういう理由か僅かに感じ取れるのです。
絡められない指と指とを虚空に繋ぎ、僕たちは、そっと口付けを交わしました。
「……荒井くんは」、
さんがやがてそう口にしたのは、永遠とも思えるような時間が過ぎた後の事でした。
「それを理由にして、何処かに行ってしまったりは、しないよね?」
「……そんな事、しませんよ。約束したじゃありませんか、さんと生きることを」
「そう。……そうだよね」
自らに言い聞かせるかのように、貴方はそう言って肯きます。
苦笑いしながら、そして続けるのです、
「荒井くんが消えちゃいそうな気がして、何だか怖くて」 と。
さんは、敏感に僕のことを感じ取ってくださっているようでした。
貴方はその手をこちらに伸ばすと、僕が本当に此処にいることを確かめるように、僕の頭を撫でていきました。
「……荒井くん」
「はい」
「お互い触れられないのは事実だし、わたしも本当言うと、それは残念だし、寂しい」
「…………」
「でも」
やわらかな月明かりの中で、さんが微笑んだのがわかりました。
「ふつうの幸せとは形は違うかもしれないけど、わたしは、今目の前に荒井くんがいてくれて、すごく嬉しい」
僕は何もいう事が出来ないまま、笑みを浮かべた貴方のことを見つめ返します。
言葉は、ひとつひとつがさんから紡がれていました。
「わたしは今、すごくしあわせだよ、荒井くん」
僕は目を閉じ、涙が滲みそうになるのを堪えました。
貴方だって、どれだけ寂しい思いをした事でしょう。
僕はさんを置いていなくなり、十数年を経てからのようやくの再会、そしてこうして一緒にいる今も、僕も貴方も互いに触れることは叶わない。
なのに、しあわせだと貴方は言うのです。その顔は穏やかに微笑みを湛えたまま僕を見つめていました。
僕たちは二度目のキスをしました。
僕は、さんを好きになって、本当に良かった。
そして今日もまた、僕は朝を迎えます。
僕の方が先に夢から抜け出し、さんを起こすのが習慣となった今、いつもと変わりない一日の幕開けでした。
その人が目覚めるべき時刻が来るまでのほんの少しの間、僕はベッドに腰掛けながら時間を待ちます。
昨日より心持ち気温が高くなるだろうと、天気予報で言っていました。
確かに空は雲一つなく晴れ渡っていて、その通りになるのだろうと思えます。夏が少しずつ確実に近付いている気がしました。
――あの日から、もうじき一年。
ふと、あの時力を貸してくれた別の世界の僕はどうしているだろう、というのを考えます。
この世界のいざこざに巻き込んでしまった、けれど、それでも僕の大切な人達を助けてくれたもう一人の荒井昭二。
僕はさんと行動を共にするようになってからは、他の世界を見ることはありませんでした。
だから、彼が今どうしているのかを知ることはなかったのです。
もし、あの世界の自分が、向こうのさんと一緒になっていたなら、それはきっと 『 ふつうの 』 形のしあわせなのでしょう。
僕たちは、その形とは違うかもしれないけれど。
僕は、僕たちは、今、とてもしあわせです。
網戸窓から入り込む朝の空気が、夏の匂いを運んできます。
僕は傍らで眠る愛しいその人に目覚めてもらうため、昨日と同じように声を掛けます。
「さん、朝ですよ。起きてください――」。
そうして僕は、今日も貴方と出会うのです。
僕が貴方と出会い、別れ、そして再会した季節。
今年も、夏がまたやってくる。
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